大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和52年(オ)918号 判決 1977年12月08日

主文

理由

上告代理人片岡成弘の上告理由一について

所論上告人の昭和五二年二月四日付準備書面の記載は、「上告人の主張は従来からの主張どおりであつて、被上告人が上告人に対し、無条件で建物明渡し、及び所有権移転登記手続を請求することは許されない。」というのであり、本件記録に徴すると、従来の主張とは上告人の本件建物買取請求権行使に基づく留置権の抗弁を指すものであり、上告人は、被上告人が右建物買取請求に応じて従前の本件建物収去本件土地明渡の請求を本件建物明渡及び本件建物につき所有権移転登記手続の請求に変更したのに対し、変更された請求についても留置権の抗弁を維持する旨を右準備書面によつて主張したものであることが明らかである。右事情のもとにおいては、原審が、有体物である本件建物について留置権の成立を認め、本件建物明渡を求める請求部分についてのみ建物買取代金の支払と引換えにこれを認容し、有体物とはいえない登記に関する請求部分については、無条件でこれを認容したことは正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同二について

建物買取請求権を行使した者は、同請求権行使後、当該建物の占有によりその敷地を占有している限り、敷地の賃料相当額を敷地占有に基づく不当利得として敷地所有者に返還すべき義務を負うものと解すべきところ(大審院昭和一〇年(オ)第二六七〇号同一一年五月二六日判決・民集一五巻九九八頁、最高裁判所昭和三三年(オ)第五一八号同三五年九月二〇日第三小法廷判決・民集一四巻一一号二二二七頁参照)、原判決は、上告人が、本件建物買取請求権行使の翌日以降、本件建物の敷地である本件土地賃料相当額だけでなく、これを含む本件建物賃料相当額を不当利得として被上告人に返還すべき義務を負うかのごとき判断を示した点において、措辞妥当を欠くが、原審が上告人に対し不当利得として返還することを命じたのは、本件土地賃料とその額を同じくする一か月一三五〇円の割合による額であり、原審は結局被告に対し本件建物の敷地である本件土地賃料相当額を不当利得として返還することを命じたものにすぎないから、原審のこの判断は結論において正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右違法を前提とする所論違憲の主張はその前提を欠く。論旨は、採用することができない。

(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山 亨)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例